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ボーッとしてたら手が勝手に打ってました。

続きから不毛すぎる妙義短文です。

 粒あんは好きじゃねぇんだ、と言ったのを薄々ながら覚えていた。あの時ソファで寝ていたら中里が帰ってきた音に意識が少しだけ浮上したのだ。ほんの1ミリくらい――だと慎吾は思っている――の隙間だけ瞼を開けたら、中里が片手に箱を持ちながら確かにそう言った。その後すぐにまた深い眠りに入った脳は、その時の事はそれ以外全く覚えていないが。
 だから今慎吾の目の前にある箱が何かを知っている。それは慎吾がソファで目覚めた昼だった。嫌いなら、食っても良いよな。
 中里毅は帰り途中車の中でぼんやりと考えていた。昨日饅頭を貰ってきたが、粒餡は好きではない。餡子は好きなのに何故粒が入ると駄目なのか。人の好き嫌いなど追及のしようが無い不毛な事をどんどんと考えながら着々と家路を辿っていく。
 粒のあの感触が駄目なのかもしれない。そもそも食べたのは随分昔の事だったから、もしかしたら今食べると美味しいかもしれない。嫌いなはずの粒餡が入った饅頭をすぐ食べたい気分に駆られながら、中里は自宅の扉を開けた。
 しかしそんな中里の期待を裏切る慎吾はすでに空になった箱を目の前に、中里が家を出た時と同じ姿勢でソファに寝転がっていた。
 「俺の饅頭は」
 「無い」
 眉を寄せる中里。平然とする慎吾。聞き間違えかもしれない。
 「今なんて」
 「もうねぇ」
 開いた口が塞がらないとまではいかないものの、流石にぽかんとしてしまった。
 「何で食ったんだ」
 そう、中里の記憶違いでなければ慎吾は餡子が嫌いなはずだった。少なくとも今まで中里の頭にはそうインプットされていたのだ。
 「おれもあんたも嫌いだから」
 「嫌いなのに何で食った」
 ここまで来るともう訳が分からない中里は、言葉では表せない様な微妙な感情になっていた。
 「何で嫌いなのかを追及するために」
 そう言った慎吾は、昨日貰ってきたばかりの饅頭の残骸を箱に入れて箱ごとゴミ箱へと投げ捨てた。
 俺の饅頭は丸い口へと吸い込まれていった。一体、貰ったのは誰だ?
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