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はやくも放置していた 妙義文。
これ日記に載せない方が良いのだろうか。
続きからドウゾ。
これ日記に載せない方が良いのだろうか。
続きからドウゾ。
先日の一件でチーム内にやや冷めた視線が送られる中、全てが慎吾の悪い方向へと転んでいった訳では無かったのには正直慎吾本人が驚いたものだ。
チームメンバーを一人煽って殴られたから殴り返しただけで何故こうも神経質になるんだ、と拗ねた顔をしていた慎吾は相変わらず一人で佇み、足元の吸殻を増やしながらたむろうメンバーを睨みつけていた。盗み聞きするつもりでは無かったが、多少の会話が聞こえてくるのも有り実際一人でする事も無かったので――走るのには少々疲れていた――その睨みを利かせている先の会話に耳を澄ましていたのだったが、やがてそれも飽き飽きして愛車に乗り込もうとした。
「庄司」
突然話しかけられた知らぬ声に、また何か言われるのか、とうんざりしていた慎吾は車内から顔を上げ、気だるそうな声で相手を確認する。
「…あんだよ」
説教じみた事が始まったらまず殴ってから何も言わず車に乗り込みそのまま一流ししてやろう、と考えていた慎吾が見上げた先には、むしろナイトキッズに居たかも分からぬ顔。
「ちょっと話が有るんだけどよ」
「俺には無いね」
気安く声をかけておいて、ちょっと話が有る。これはきっと良い話では無いに違いない、慎吾は勝手にかこつけておいてそれだけ言い残しそそくさと愛車へと乗り込んでしまった。オイ、と声を掛ける見覚えの無いが恐らくメンバーらしきその者を横目で一瞥してから慎吾は構わず行ってしまった。
その翌朝、慎吾の携帯には一件の着信が残っていた。あまりの暑さにうんざりと苛々しながら、朝日の染みる寝ぼけ眼で携帯の液晶を確認してからゆっくりと起き上る。無音で打たれる携帯のボタンがやがて目的の場所へと画面を導いた時、慎吾は携帯を耳に当てた。
『ちょっと話があるんだけど』
何処かで聞いた台詞だな、と思いながら慎吾は相槌を打った。汗で濡れたタンクトップを脱ぎながら、嗚呼、嗚呼、と適当に相槌を打っても会話は見事に成立する、携帯の向こうで自分と同じに携帯に耳を押し付ける相手はそれでもツーカーの様に分かってしまう相手だった。それが中々都合が良くて、うざったいと思ってもついつい話を聞きいれてしまう。
「俺にはねぇ」
これもまた何処かで聞いた様な台詞だ。しかし相手はそんな慎吾の返しにも何も思わず強引に話を進めようとする。要するに、自分が話があるから無理にでも来い、と。会話には出ないが慎吾にはまるで脅迫の様に聞こえた。
『じゃ、ファミリーズだっけ?そこで』
そこで否定の返事はもう聞かない、とばかりにぶつんと切られてしまった。ファミリーズとは何処だ、と慎吾は眉を寄せた。そんな場所は聞いた事が無いし、相手もうろ覚えの様な言い方をしていた。慎吾の知らない場所であったら場所をちゃんと教えるだろうし、そもそもそんな処を待ち合わせの場所に選ぶ筈が無い。強引で我儘で自分勝手だが、ちゃんと相手を思うところもある、それが慎吾の付き合ってきた理由の一つでもあるのだ。
脱いだタンクトップを鬱陶しそうに投げながら通話を切った携帯を布団の上に置いた。大きい欠伸を一つしながら立ち上がり、気持ち悪い汗を流す為の朝シャンの時間だ。環境破壊の元、など何処がどうしてそうなるのかは分からないがどんな理屈があっても今を生きる慎吾にとって未来の環境破壊など気にも止めない。適当に水を浴びて適当に体を拭き、今の時間誰も居ない家を半裸でうろうろしながら適当に飯を食らった。あまり時間をかけると呼びだしてきた相手の頭に角が生えるのは目に見えている、そんな時間をかけて準備するものなんて無いが、取り敢えずベルトとシャツを適当に引っ掴んで、ついでにキーを手にするのも忘れず玄関へと向かっていったところで、また大事な事を思い出した。ファミリーズとは、何処なのだろう。
名前と待ち合わせの場所というのからしてファミレスなのは違い無いが、取り敢えず何とかなるかと近くのファミレスから虱潰しに寄っていけば良いかと考えた。先ずは一番近くのファミレスへと寄ったら其処に相手は居た。どうやらガソリンを消費する手間も省けた様だが慎吾は良く利用するそこのファミレスの名前がファミリーズと言うのを今初めて知ったのだ。ファミレスの名前なんか一々見て居られないのも有り、大体人と行く時はファミレス寄るか、と言ったら近くにある適当なところを利用したり地元だと大体此処になるので名前など言う必要も無いのだ。
それは置いておいて、肝心の相手。
「遅い」
会って開口一番その台詞を吐く相手は、流石の慎吾も恐れ入るものがある。
「そんなたって無ぇだろ」
「でも普通レディを先に来させるー?」
「…最初から居たんだろお前」
呟きながら向かいの席へと座る慎吾に、相手は当たり、と小さく肩を竦ませた。場所が分からないだの何だのは言えた筈だが、そこでその言葉を発するとまた馬鹿にする様な言葉が出てくるのはもう経験済みだ。
待ち合わせの相手というのは、小中一緒で家も近いという幼馴染の女性である。慎吾自体それを女性、と一口に認識した事はあまり無いが、確かに顔は整っていて世話焼きのお節介と来ると良い女なのだろう――オマケに胸もでかい――が、慎吾はこの幼馴染に恋をする男をいくらか見てきたが慎吾自体それは不思議でならなかった。相手に彼氏が出来る度に毎回毎回その女の本性を教えてやりたいくらいだが、流石にそれは止めておく事にする。それではまるで自分が嫉妬しているみたいであるし、殴られるだけでは済まないだろう。殴る、慎吾に対して簡単にそれを使える相手は、後にも先にも恐らく幼馴染の沙雪のみである。こればっかりは慎吾も頭が上がらなかった。
「で、話ってなんだよ」
近くに寄るウェイトレスにドリンクだけ頼んで終わりにしようと思った慎吾に、沙雪がどんどんと注文を増やしていった。額に皺を寄せながら沙雪を睨みつけるがこの幼馴染は意に反さない。全く手強い相手だ、と毎回思う。慎吾の言葉など今は聞いてはいないのだ。
「以上で宜しいですか?」
機械的なウェイトレスの声がすると、沙雪はやっとの事でメニューから顔を上げた。
「慎吾は?勿論慎吾の奢りだけど」
「俺財布持ってきてねえぞ」
「…い、今の全部無しでアイスコーヒー二つ!」
かしこまりました、と下がっていくウェイトレスの後ろ姿を恨めしく見ながらその視線を慎吾へと向ける沙雪に、慎吾は意に反さない。どうやら沙雪にとっても慎吾は手強い相手らしい。
「恥をかかせたわね」
「勝手に奢らせるお前の神経を疑うぜ」
「ファミレスへ呼びだされておいて財布を持って来ないアンタの考えが分からない」
大体アンタは、とお決まりの台詞を吐いてから延々と続くであろう沙雪の愚痴に慎吾は肩を落とした。こんな時は煙草に限る、ポケットへと手を伸ばしたその中で財布と共に煙草も忘れてしまっていた事に気づきまた肩を下げた。煙草も無しに沙雪の長話を聞かせられるのは少々応えるが、最終手段としてこの幼馴染を黙らせられる魔法の言葉を慎吾は知っていた。
「…太るぞ」
案の定、沙雪はギクリと体を固まらせた。してやったりと思った刹那、沙雪は魔法を解かれた様に顔のパーツを中心に寄せた。
「関係無いでしょ」
「食おうとしてたじゃねぇか」
「あれは慎吾の分」
「お前が一通り頼んだ後、慎吾は?って聞いたじゃねぇか」
言い返す言葉も無くなった沙雪に、追い打ちをかける様にまた一言。
「……豚になっちまうぞ」
「ならないわよ!!」
ばん、と握りこぶしの側面でテーブルを叩いて怒る沙雪の目の前にアイスコーヒーが差し出される。はっと気づき手を引っ込めながら大人しくなるが沙雪の目はまだ慎吾を睨みつけていた。二人分のアイスコーヒーがテーブルに並ぶとウェイトレスは去っていくが、そのウェイトレスが二人の情景を見て何を思ったのかは想像も出来ない。
「そういや、お前の幼馴染とはどうだ」
「アンタじゃない」
「ばかやろう」
拗ねた様にアイスコーヒーをすする沙雪に慎吾は眉を寄せた。
沙雪のもう一人の幼馴染、それは慎吾の様に性格も捻くれてなければそもそも男でも無い。
「知ってる、真子とは上手くやってるよ、碓氷ももう完璧」
沙雪のもう一人の幼馴染の佐藤真子は、碓氷を地元にして走る者の中には知らない者は居ないくらい地元で有名な走り屋だ。ブルーのシルエイティに乗り手とは全く想像もつかないヘビーな走りを披露するその姿は、まさに碓氷のインパクトブルー。碓氷にその二人有り、と呼ばれる真子と沙雪は二人で同じ車に乗り、二人で困難を乗り越え、二人で碓氷を完璧に走っていく。最速の天使とはまさにこの二人の事であった。ドライビングをする真子とそのナビゲーションをする沙雪は、性格は真逆だが二人は心から通じた仲良しさん故に幼馴染さながら息の合ったコンビネーションを生み出す。慎吾自身、そのシルエイティのドライビングにはド肝を抜かれた事もあった。小さい頃から良く傍に居た沙雪と違って、慎吾は真子とは面識があまり無かったが、その姿は幾度か見た事があった。
――ステアリングを握ると性格が変わるのよ。
いつか沙雪の言っていた事だ。当初は、ふーん、と流していた慎吾であったがその走りを見てから、成程確かにそうかもしれない、と車内の真子を見た事が無いのにそう実感してしまうほど真子は凄い走りをする走り屋なのだ。いや、真子と沙雪のコンビは、それ程凄い。
「ねえ、碓氷来ないの」
アイスコーヒーを啜る沙雪が口数少なくそう呟いた。慎吾が毎回毎回流す様に適当に促していたその台詞は、過去にも何度か言われた事が有る。どうやら今回は慎吾なりの考えをまともに聞いてみたいのだろう、促せる様な雰囲気はそこには漂っていなかった。
「碓氷はオマエ等が居るじゃねぇか」
「関係無いじゃない、アンタ、チームとか嫌いそうだからこっちの方が気が楽かもよ?」
「沙雪と一緒に居る方がたまんねぇや」
「真面目に」
茶化を入れる慎吾に沙雪は口をとがらせた。全く、といった様に慎吾も目を軽く横に流しながら少々思案する。
「別に、考えなんて無ぇよ」
色々理由は有ったが、どれも言葉には表現し辛いものがあった。
「良いじゃねえか、オレが行ったらお前ら最速じゃなくなるぜ」
「よっく言う、まあそれで良いなら良いんだけど」
呆れた、という装いに肩を竦め手を横に伸ばす沙雪に慎吾は自然と口端が上がった。ところがその刹那、緩んだ額にも眉が寄る。
「そういやオマエ、話ってなんだよ」
「あーあ……」
本題を忘れていた慎吾は本人に直球に問いただしても、目の前でもじもじとした幼馴染の姿が見れるだけで中々話を切り出そうとはしなかった。そんなに重要な話なのか、と慎吾は身構えて沙雪の口から出る言葉を待っていたが、それは慎吾の予想を斜め上に超えるものであった。
「財布、無いの」
呆れた、という装いに慎吾は眉を寄せた。
全くこの幼馴染は自分で財布も持っていない事にも気付かずファミレスに入るなど無鉄砲にも程が有る。それに、追加でランチまで頂こうとしていたなんて。ファミレスの一角には、財布も持たずオーダーをしてしまった男女が居るだけだった。
チームメンバーを一人煽って殴られたから殴り返しただけで何故こうも神経質になるんだ、と拗ねた顔をしていた慎吾は相変わらず一人で佇み、足元の吸殻を増やしながらたむろうメンバーを睨みつけていた。盗み聞きするつもりでは無かったが、多少の会話が聞こえてくるのも有り実際一人でする事も無かったので――走るのには少々疲れていた――その睨みを利かせている先の会話に耳を澄ましていたのだったが、やがてそれも飽き飽きして愛車に乗り込もうとした。
「庄司」
突然話しかけられた知らぬ声に、また何か言われるのか、とうんざりしていた慎吾は車内から顔を上げ、気だるそうな声で相手を確認する。
「…あんだよ」
説教じみた事が始まったらまず殴ってから何も言わず車に乗り込みそのまま一流ししてやろう、と考えていた慎吾が見上げた先には、むしろナイトキッズに居たかも分からぬ顔。
「ちょっと話が有るんだけどよ」
「俺には無いね」
気安く声をかけておいて、ちょっと話が有る。これはきっと良い話では無いに違いない、慎吾は勝手にかこつけておいてそれだけ言い残しそそくさと愛車へと乗り込んでしまった。オイ、と声を掛ける見覚えの無いが恐らくメンバーらしきその者を横目で一瞥してから慎吾は構わず行ってしまった。
その翌朝、慎吾の携帯には一件の着信が残っていた。あまりの暑さにうんざりと苛々しながら、朝日の染みる寝ぼけ眼で携帯の液晶を確認してからゆっくりと起き上る。無音で打たれる携帯のボタンがやがて目的の場所へと画面を導いた時、慎吾は携帯を耳に当てた。
『ちょっと話があるんだけど』
何処かで聞いた台詞だな、と思いながら慎吾は相槌を打った。汗で濡れたタンクトップを脱ぎながら、嗚呼、嗚呼、と適当に相槌を打っても会話は見事に成立する、携帯の向こうで自分と同じに携帯に耳を押し付ける相手はそれでもツーカーの様に分かってしまう相手だった。それが中々都合が良くて、うざったいと思ってもついつい話を聞きいれてしまう。
「俺にはねぇ」
これもまた何処かで聞いた様な台詞だ。しかし相手はそんな慎吾の返しにも何も思わず強引に話を進めようとする。要するに、自分が話があるから無理にでも来い、と。会話には出ないが慎吾にはまるで脅迫の様に聞こえた。
『じゃ、ファミリーズだっけ?そこで』
そこで否定の返事はもう聞かない、とばかりにぶつんと切られてしまった。ファミリーズとは何処だ、と慎吾は眉を寄せた。そんな場所は聞いた事が無いし、相手もうろ覚えの様な言い方をしていた。慎吾の知らない場所であったら場所をちゃんと教えるだろうし、そもそもそんな処を待ち合わせの場所に選ぶ筈が無い。強引で我儘で自分勝手だが、ちゃんと相手を思うところもある、それが慎吾の付き合ってきた理由の一つでもあるのだ。
脱いだタンクトップを鬱陶しそうに投げながら通話を切った携帯を布団の上に置いた。大きい欠伸を一つしながら立ち上がり、気持ち悪い汗を流す為の朝シャンの時間だ。環境破壊の元、など何処がどうしてそうなるのかは分からないがどんな理屈があっても今を生きる慎吾にとって未来の環境破壊など気にも止めない。適当に水を浴びて適当に体を拭き、今の時間誰も居ない家を半裸でうろうろしながら適当に飯を食らった。あまり時間をかけると呼びだしてきた相手の頭に角が生えるのは目に見えている、そんな時間をかけて準備するものなんて無いが、取り敢えずベルトとシャツを適当に引っ掴んで、ついでにキーを手にするのも忘れず玄関へと向かっていったところで、また大事な事を思い出した。ファミリーズとは、何処なのだろう。
名前と待ち合わせの場所というのからしてファミレスなのは違い無いが、取り敢えず何とかなるかと近くのファミレスから虱潰しに寄っていけば良いかと考えた。先ずは一番近くのファミレスへと寄ったら其処に相手は居た。どうやらガソリンを消費する手間も省けた様だが慎吾は良く利用するそこのファミレスの名前がファミリーズと言うのを今初めて知ったのだ。ファミレスの名前なんか一々見て居られないのも有り、大体人と行く時はファミレス寄るか、と言ったら近くにある適当なところを利用したり地元だと大体此処になるので名前など言う必要も無いのだ。
それは置いておいて、肝心の相手。
「遅い」
会って開口一番その台詞を吐く相手は、流石の慎吾も恐れ入るものがある。
「そんなたって無ぇだろ」
「でも普通レディを先に来させるー?」
「…最初から居たんだろお前」
呟きながら向かいの席へと座る慎吾に、相手は当たり、と小さく肩を竦ませた。場所が分からないだの何だのは言えた筈だが、そこでその言葉を発するとまた馬鹿にする様な言葉が出てくるのはもう経験済みだ。
待ち合わせの相手というのは、小中一緒で家も近いという幼馴染の女性である。慎吾自体それを女性、と一口に認識した事はあまり無いが、確かに顔は整っていて世話焼きのお節介と来ると良い女なのだろう――オマケに胸もでかい――が、慎吾はこの幼馴染に恋をする男をいくらか見てきたが慎吾自体それは不思議でならなかった。相手に彼氏が出来る度に毎回毎回その女の本性を教えてやりたいくらいだが、流石にそれは止めておく事にする。それではまるで自分が嫉妬しているみたいであるし、殴られるだけでは済まないだろう。殴る、慎吾に対して簡単にそれを使える相手は、後にも先にも恐らく幼馴染の沙雪のみである。こればっかりは慎吾も頭が上がらなかった。
「で、話ってなんだよ」
近くに寄るウェイトレスにドリンクだけ頼んで終わりにしようと思った慎吾に、沙雪がどんどんと注文を増やしていった。額に皺を寄せながら沙雪を睨みつけるがこの幼馴染は意に反さない。全く手強い相手だ、と毎回思う。慎吾の言葉など今は聞いてはいないのだ。
「以上で宜しいですか?」
機械的なウェイトレスの声がすると、沙雪はやっとの事でメニューから顔を上げた。
「慎吾は?勿論慎吾の奢りだけど」
「俺財布持ってきてねえぞ」
「…い、今の全部無しでアイスコーヒー二つ!」
かしこまりました、と下がっていくウェイトレスの後ろ姿を恨めしく見ながらその視線を慎吾へと向ける沙雪に、慎吾は意に反さない。どうやら沙雪にとっても慎吾は手強い相手らしい。
「恥をかかせたわね」
「勝手に奢らせるお前の神経を疑うぜ」
「ファミレスへ呼びだされておいて財布を持って来ないアンタの考えが分からない」
大体アンタは、とお決まりの台詞を吐いてから延々と続くであろう沙雪の愚痴に慎吾は肩を落とした。こんな時は煙草に限る、ポケットへと手を伸ばしたその中で財布と共に煙草も忘れてしまっていた事に気づきまた肩を下げた。煙草も無しに沙雪の長話を聞かせられるのは少々応えるが、最終手段としてこの幼馴染を黙らせられる魔法の言葉を慎吾は知っていた。
「…太るぞ」
案の定、沙雪はギクリと体を固まらせた。してやったりと思った刹那、沙雪は魔法を解かれた様に顔のパーツを中心に寄せた。
「関係無いでしょ」
「食おうとしてたじゃねぇか」
「あれは慎吾の分」
「お前が一通り頼んだ後、慎吾は?って聞いたじゃねぇか」
言い返す言葉も無くなった沙雪に、追い打ちをかける様にまた一言。
「……豚になっちまうぞ」
「ならないわよ!!」
ばん、と握りこぶしの側面でテーブルを叩いて怒る沙雪の目の前にアイスコーヒーが差し出される。はっと気づき手を引っ込めながら大人しくなるが沙雪の目はまだ慎吾を睨みつけていた。二人分のアイスコーヒーがテーブルに並ぶとウェイトレスは去っていくが、そのウェイトレスが二人の情景を見て何を思ったのかは想像も出来ない。
「そういや、お前の幼馴染とはどうだ」
「アンタじゃない」
「ばかやろう」
拗ねた様にアイスコーヒーをすする沙雪に慎吾は眉を寄せた。
沙雪のもう一人の幼馴染、それは慎吾の様に性格も捻くれてなければそもそも男でも無い。
「知ってる、真子とは上手くやってるよ、碓氷ももう完璧」
沙雪のもう一人の幼馴染の佐藤真子は、碓氷を地元にして走る者の中には知らない者は居ないくらい地元で有名な走り屋だ。ブルーのシルエイティに乗り手とは全く想像もつかないヘビーな走りを披露するその姿は、まさに碓氷のインパクトブルー。碓氷にその二人有り、と呼ばれる真子と沙雪は二人で同じ車に乗り、二人で困難を乗り越え、二人で碓氷を完璧に走っていく。最速の天使とはまさにこの二人の事であった。ドライビングをする真子とそのナビゲーションをする沙雪は、性格は真逆だが二人は心から通じた仲良しさん故に幼馴染さながら息の合ったコンビネーションを生み出す。慎吾自身、そのシルエイティのドライビングにはド肝を抜かれた事もあった。小さい頃から良く傍に居た沙雪と違って、慎吾は真子とは面識があまり無かったが、その姿は幾度か見た事があった。
――ステアリングを握ると性格が変わるのよ。
いつか沙雪の言っていた事だ。当初は、ふーん、と流していた慎吾であったがその走りを見てから、成程確かにそうかもしれない、と車内の真子を見た事が無いのにそう実感してしまうほど真子は凄い走りをする走り屋なのだ。いや、真子と沙雪のコンビは、それ程凄い。
「ねえ、碓氷来ないの」
アイスコーヒーを啜る沙雪が口数少なくそう呟いた。慎吾が毎回毎回流す様に適当に促していたその台詞は、過去にも何度か言われた事が有る。どうやら今回は慎吾なりの考えをまともに聞いてみたいのだろう、促せる様な雰囲気はそこには漂っていなかった。
「碓氷はオマエ等が居るじゃねぇか」
「関係無いじゃない、アンタ、チームとか嫌いそうだからこっちの方が気が楽かもよ?」
「沙雪と一緒に居る方がたまんねぇや」
「真面目に」
茶化を入れる慎吾に沙雪は口をとがらせた。全く、といった様に慎吾も目を軽く横に流しながら少々思案する。
「別に、考えなんて無ぇよ」
色々理由は有ったが、どれも言葉には表現し辛いものがあった。
「良いじゃねえか、オレが行ったらお前ら最速じゃなくなるぜ」
「よっく言う、まあそれで良いなら良いんだけど」
呆れた、という装いに肩を竦め手を横に伸ばす沙雪に慎吾は自然と口端が上がった。ところがその刹那、緩んだ額にも眉が寄る。
「そういやオマエ、話ってなんだよ」
「あーあ……」
本題を忘れていた慎吾は本人に直球に問いただしても、目の前でもじもじとした幼馴染の姿が見れるだけで中々話を切り出そうとはしなかった。そんなに重要な話なのか、と慎吾は身構えて沙雪の口から出る言葉を待っていたが、それは慎吾の予想を斜め上に超えるものであった。
「財布、無いの」
呆れた、という装いに慎吾は眉を寄せた。
全くこの幼馴染は自分で財布も持っていない事にも気付かずファミレスに入るなど無鉄砲にも程が有る。それに、追加でランチまで頂こうとしていたなんて。ファミレスの一角には、財布も持たずオーダーをしてしまった男女が居るだけだった。
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